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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1267号 決定 1981年4月17日

主文

原決定を取り消す。

本件競落は、これを許さない。

理由

一抗告人は、原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める旨申し立てたが、抗告の理由は、別紙記載<省略>のとおりである。

二当裁判所の判断は、次のとおりである。

前掲各競売事件記録によれば、原決定の前掲となつた、原決定別紙物件目録(一)記載の宅地(以下「本件宅地」という。)についての持分を二分の一とする抗告人(昭和五二年(ケ)第三三六号事件及び昭和五五年(ケ)第八四八号事件の所有者)の共有持分(以下「抗告人持分」という。これについては、昭和五二年(ケ)第八七九号事件債権者東武信用金庫の第一順位の根抵当権、昭和五五年(ケ)第八四八号事件債権者株式会社角重ほか四名の第二順位の根抵当権が設定されている。賃貸借関係はない。)、本件宅地についての持分を二分の一とする赤石昭一(昭和五二年(ケ)第三三六号事件、同年(ケ)第八七九号事件及び昭和五五年(ケ)第八四八号事件の債務者兼所有者)の共有持分(以下「赤石昭一持分」という。これについては、東武信用金庫の第一順位の根抵当権、同年(ケ)第三二一六号事件債権者野口春代の第二順位の根抵当権(ただし、その設定につき仮登記を経ているのみで、本登記は未経由)、株式会社角重ほか四名の第三順位の根抵当権が設定されている。賃貸借関係はない。)及び同目録(二)記載の建物(赤石昭一所有、以下「本件建物」という。これについては、本件宅地の赤石昭一持分についてと同一の債権者による同一順位の根抵当権が設定されている。競落人の負担となるような賃貸借関係はない。)の最高価入札人の決定は、昭和五五年一〇月二七日午後一時の入札期日におけるいわゆる特殊一括入札の方法(入札の申出をしようとする者は、各物件の入札価額を定めたうえ、その合計額をもつて全物件につき一括して入札の申出をしなければならず、各物件の入札価額の合計額が最高価額となる者を最高価入札人とするものとし、各物件の落札価額は、競争者がなかつた場合又は各物件の入札申出価額がそれぞれ最高価額である場合には、各物件の入札申出価額とし、右以外の場合には、入札申出価額の合計額を各物件の最低入札価額で按分した額とする方法)によつたものであることが明らかであるが、記録によれば、前示入札期日の公告には、本件宅地の抗告人持分とその赤石昭一持分についての、それぞれの最低入札価額が掲げられていなかつたことが明らかである。仮にそれを掲げる代わりに本件宅地の最低入札価額を掲げれば足りるものであつたとしても、右各物件の入札が前述のような特殊一括入札の方法によるものであつた以上、本件宅地の最低入札価額は、建物付土地としてのその価格によつてこれを定めるのが相当であると考えられるが、記録によれば、原審は、評価人水野英一が昭和五二年(ケ)第三三六号事件及び同年(ケ)第八七九号事件につき、昭和五四年一〇月二二日に原審に提出した二通の評価書における本件宅地の抗告人持分の評価額五八六万円と本件宅地の赤石昭一持分の評価額五八六万円との合算額一一七二万円をもつて本件宅地の最低入札価額と定め、これを前示の入札期日の公告に掲げたことが認められるところ、右二通の評価書及び同評価人が当審に提出した右各事件の評価書に対する説明書及び追加説明書によると、同評価人は、右二通の評価書において、本件宅地の抗告人持分及びその赤石昭一持分を評価する前提としての本件宅地の評価額を算定するに当たり、本件宅地と本件建物とが個別に競売されるとの前提のもとに、本件宅地の評価額を建物付土地としてのその価格(更地価格からその三パーセントを減じたもの)からさらにその二〇パーセントを減じた額としたことが認められるので、本件宅地についての右の最低入札価額は、不当に低かつたものといわなければならず、したがつて前示入札期日の公告には、本件宅地についての適法な最低入札価額が掲げられなかつた瑕疵があるものといわなければならない。これは、民事執行法附則第二条によつて廃止前の競売法(以下「旧競売法」という。)第三二条第二項によつて準用される、民事執行法附則第三条による改正前の民事訴訟法(以下「改正前民事訴訟法」という。)第六七二条第四号所定の場合に該当するものであつて、原審としては、旧競売法第三二条第二項によつて準用される改正前民事訴訟法第六七四条により、本件競落を許さないこととしたうえ、さらに競売期日を定めて手続を続行すべきであつたというべきである。

よつて原決定は不当であるから、これを取り消したうえ、旧競売法第三二条第二項、改正前民事訴訟法第六八二条第三項、第六七四条に則つて主文のとおり決定する。

(林信一 宮崎富哉 高野耕一)

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